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Ephemera 「短冊」ウィジェット

Ephemera 「短冊」ウィジェット


WordPress の新バージョン 3.2 の標準テーマ Twenty Eleven には、新しいウィジェット「短冊」が加えられています。このウィジェットの名称は、元の英語版では Ephemera 。これを日本語版ではなぜ「短冊」とすることになったのか、というお話です。

本題に入る前に、予備知識として投稿フォーマットについて見ておきましょう。投稿フォーマットとは、投稿記事の種類によって記事の見せ方に変化をつけるために、WordPress 3.1 から導入されました。複数の文章・段落から成る「ちゃんとした」記事を標準とすれば、ちょっとした短い記事はアサイド、リンクが主でそれにちょっとコメントする程度の場合はリンク、同様に引用が主の場合は引用、一枚の画像を対象とした画像、Twitter のひとつの tweet のような近況報告はステータス……ほかにもいくつかありますが、詳しくは Codex の各投稿フォーマットについての説明をご覧ください。投稿記事ごとにこの投稿フォーマットを指定しておけば、それぞれに応じた見せ方をテーマのほうで用意して、ブログ全体にメリハリをつけることができます。

さて、この「短冊」ウィジェットをたとえばサイドバーに配置すると何が表示されるのでしょうか。そこには、アサイド・ステータス・引用・リンクの各投稿フォーマットを指定されている記事のリストが現れます。

ではいよいよ、このような機能のウィジェットがなぜ英語では Ephemera 、そして日本語では「短冊」という名称なのか、という本題に入っていきます。

Ephemera は辞書を引くと、昆虫のカゲロウ(蜉蝣)、転じて短命なもの、という意味です。WordPress 日本語版作成チームは、3.2 のベータ版の頃、とりあえずこれを「カゲロウ」とそのまま訳していました。3.2 リリースが間近になって、ひとりが

Ephemera の訳「カゲロウ」はさすがに違和感がありますので良い日本語訳はないでしょうか ?

と疑問を投げかけました。カゲロウといえば「はかなきもの」の象徴だが英語でもそうなのだろうか、短命の美をポジティブにとらえた表現なのだろうか、でもなぜ上述の投稿フォーマットを指してそのカゲロウなのか……と議論しつつ、日本語では直截に「ひとこと」「短信」、それに「うたかた」などの案が出てきました。

そのうちに、ひとりが

Wikipediaによると
エフェメラ (ephemera) は一時的な筆記物および印刷物で、長期的に使われたり保存されることを意図していないものを指す。しばしば収集の対象となる。」

という情報をもたらしました。するとカタカナで「エフェメラ」にしておくのも選択肢のひとつ、ということになります。

後になって「エフェメラ」は、実は図書館情報学で用いられる学術用語であることがわかってきました。ここまでわかってからようやく google で「エフェメラ」を検索してみると、印刷業界では「端物印刷物」を愛着を込めて「エフェメラ」と呼ぶことがある、などということがわかりました。なるほど、それで上述の機能を持つウィジェットが英語で Ephemera という名称なんですね。

「一枚紙にまとめて」と言うときの一枚紙、あるいは一枚物、というのが近いとのことですが、今回は Webに表示される用語ですから一枚も何もないわけで、違和感があります。確かに日本でも「エフェメラ」で通用する分野があることはわかりましたが、一般的とは言えません。

日本語版作成チームで話すうちに、さらに「一筆もの」「一筆箋」などの案が出ましたが、どうもいまひとつです。そうするうちに7月7日になり、七夕ムードの中でひとりが Twitter で

Ephemera の訳語はもう「短冊」でいい気がしてきた

とつぶやきました。これに別のひとりが反応しました。

短冊は、短歌・俳句はもちろん、名言や座右の銘、それに日本画のものもよくあります。職場に目標や安全標語を書いて貼っているやつも短冊といいます。もちろん七夕に笹に飾るのも短冊です。その小ささといい、アサイド・リンク・引用・ステータスという投稿フォーマットを載せるのにはぴったりです。

この案にほかのメンバーの多くも賛意を示し、日本語では「短冊」ウィジェットと称することにしたのです。

「短冊」という語を目にして「何だこれ ?」と思われることもあるでしょう (おそらく英語圏での Ephemera も同じような反応ではないかと想像します)。今回の翻訳作業を通じて「エフェメラ」という語とその意味についての知識を得ることができ、せっかくなのでそれを広めたい (皆さんもうご存じのことでしたか ?)、そして WordPress 日本語版作成チームの活動の一端を紹介したいという気持ちで、ここに書いてみました。

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